食道胃接合部癌の治療

1.食道胃接合部癌とは

食道胃接合部癌は、その言葉の通りに食道と胃の境界線に位置する癌のことです。基本的に食道は胸腔内に存在し、胃は腹部臓器でありますので、食道・胃の両臓器に跨って存在する解剖学的位置にあるこの食道胃接合部癌の場合、食道癌に準じた手術なのか、胃癌と同じ様に扱ってよいのか、未だに議論がたえないところです。特に進行癌の手術を考えた場合、食道癌に対しては食道亜全摘、胃癌に対しては胃全摘が標準的な術式でありますので、アプローチ法・皮膚切開・切除範囲・再建法、多くの点で一致していないことが明らかです。ただし、最近の国内での研究結果をふまえて、ようやく術式選択については一定になってきているように思われます。

日本においては“食道胃接合部の上下2cm以内に癌腫の中心があるもの”を食道胃接合部癌と呼びます。「食道胃接合部」とは、食道と胃の境界線のことを指します。腫瘍の占居部位によりE,EG,E=G,GE,Gと細かく小分類され、食道にのみ腫瘍が存在するE、胃にのみ腫瘍が存在するG、2領域にまたがる場合には中心が食道に寄っていればEG,胃に寄っていればGE,ちょうど接合部にあればE=Gと表記して区別しています。

2.食道胃接合部癌の手術治療

そもそも癌の外科手術は、原発巣である腫瘍を切除するのと同時に、転移している、あるいは転移しているかもしれないリンパ節を郭清(切除することと同じ意味です)することで根治を目指します。原発巣だけ切除しても、リンパ節転移を取らずに残してしまうと再発してしまいます。従いまして、どこのリンパ節に転移しやすいのか、それに応じて切除範囲が決まってくることになります。

そこで、日本食道学会と日本胃癌学会の2学会が合同で、国内での多施設でのデータを集積して、転移頻度の高いリンパ節、郭清する意義のあるリンパ節がどこかが検討されました。その結果、幽門側胃の壁在リンパ節(図1の4sb,4d,5,6、参考文献1からの引用)への転移頻度は1%未満と非常に低いことが分かりました。進行癌を対象に前向きに行われた調査でもこれは同様でした。従いまして、多くの食道胃接合部癌に対しては、これまで進行胃癌で多く行われてきた胃全摘は不要であるという結論が得られました。もちろん、胃側に大きく浸潤した食道胃接合部癌で胃全摘を要する場合はありますので、がんがどこまで浸潤しているかの評価が非常に大切になってきます。

図1:接合部癌

接合部癌

一方で、食道をどの程度切除すべきかについては、腫瘍が食道側にどれだけ浸潤しているかで変わってきます。浸潤距離が長くなりますと、食道癌と同様に食道の領域リンパ節への転移頻度が上がってきます。また、下部食道をある程度以上に切除しますと、吻合部(切除後に食道と胃、あるいは食道と小腸をつなぎあわせる必要があります)が腹部側から見ると縦隔内の奥深くになって技術的に難しくなり、縫合不全リスクが高くなることが知られています。そうなりますと、縦隔炎、膿胸といった合併症から重症化することもありますので、重症合併症を避けるためにも食道亜全摘を選択することの方が安全と考えられる場合があります。従いまして、腫瘍が食道側にどこまで浸潤しているかの評価が極めて重要で、それに応じて食道亜全摘とするか、下部食道切除までで十分かを判断して術式を決めることになります。当科では図2(参考文献2からの引用)の様に3つの術式を、腫瘍の占居部位に応じて使い分けることにしています。腹腔鏡、胸腔鏡、縦隔鏡を用いて、できるだけ患者さんへの負担が少なくなる術式を選択するように心がけております。

図2:接合部癌

接合部癌

(参考文献)
1.胃癌取扱い規約第14版
2.山下裕玄、瀬戸泰之:食道胃節後部癌のリンパ節転移のパターンと頻度. 消化器外科2018;41巻2号:151-157